ランチタイムの王子様!

「ありがとうございます」

祝いの席で泥酔するような非常識な人に対しても、つぐみ姉は膝を曲げて優雅にお辞儀をしてみせた。どんな招待客にも礼を尽くす、出来た姉だ。

「ちゃんと食べているかい?自分たちのお披露目会とはいえ、新婦も食べないとね!!美味しいねえ、ここの料理は!!ささ、どうぞ」

男性は近くのテーブルに置いてあった料理を小皿に取り分けると、強引につぐみ姉に渡そうとしてきた。

「でも……」

これにはつぐみ姉も困り果てていた。

ゆりあさんがちっとも席に戻ってこない私達を怖い顔で睨んでいるのが視界の隅に入って、たまらず間に割って入る。

「申し訳ありません、新婦はそろそろ次の準備がありまして……」

「折角、取り分けたのに食べられないって言うのかい?」

ぐいぐいと無理に小皿を渡そうとして、男性はドレスの裾を思い切り踏んでいた。神聖なドレスを汚す行為に頭が沸騰しそうになる。

(これだから酔っ払いは……!!)

怒りだしたい気持ちをグッと堪えて笑顔を顔に貼りつけるようにして立っていると、つぐみ姉は観念したのか小皿とフォークを男性から受け取った。

「それでは、一口だけ……」

……まるで継母である魔女にそそのかされた白雪姫のようだ。

つぐみ姉が食べようとしているものが何なのか分かった瞬間、頭より先に身体が動いた。

(ダメ!!)

食べるのを阻止しようと咄嗟に伸ばした手は、見事つぐみ姉のフォークを掴んだ。

しかし、勢いがつきすぎて男性を巻き込んで、床に倒れ込んだのはとんだ計算外であった。

「望月さん!!」

ひっくり返った小皿は大理石の床の上でクルクルと螺旋を描くと、やがて回転が止めた。

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