ランチタイムの王子様!

「あれは同じ釜の飯を食うことで、ある種の連帯感が生まれているんです。このビルに移る前から……、それこそ“フィル・ルージュ”が出来てから脈々と受け継がれている伝統みたいなものです」

「伝統ですか……」

王子さんの口にした伝統という言葉が重くのしかかってくる。

たかがランチとバカにするのは簡単だったが、よしよしと宥めるように私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる王子さんからは、彼自身も“ルージュランチ”を大切にしていることが伝わってきた。

「というわけであなたの意見は却下です。皆さん、楽しみにしますよ。どんなに不味い料理だろうと」

王子さんは口の端を上げ意地悪く笑うと、何も言い返すことが出来ない私を残して喫煙所から出て行った。

(頭……撫でられた……)

斜めバングは王子さんの手によって跡形もなく消え去り、おでこが丸見えとなりスースーと風が吹き抜ける。

どうやら、王子さんを懐柔するという作戦は見事に玉砕したらしい。

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