ランチタイムの王子様!

「ひばり?いるの?」

王子さんが出て行って間もなくのことだった。

私は控えめなノックの音に反応するように、ピクンと身体を強張らせた。

ロングドレスから普段着に着替えたつぐみ姉は私の返事を待たずして医務室の扉を開けた。

「何だ、いるんじゃない。返事ぐらいしてよ」

「つ、つぐみ姉……」

心の準備がまだ出来ていないというのに、まさかのラスボスの登場である。

カツカツというヒールの音がまるで死刑宣告のように思えてくる。

つぐみ姉は目の前までやって来ると腕組みをして、小さくなっている私を見下ろした。

「あなたに話しがあるの」

話とは十中八九、再就職の話だろう。

大参事はよりにもよってつぐみ姉の目の前で起こった。言い訳などしようがない。

私はきっとフィル・ルージュを辞めさせられて、つぐみ姉の選んだ事業内容もネームバリューも信頼のおける会社に再就職させられるだろう。

でも、本当にこのままでいいの?

私はまだこの会社に入社してから、何も成し遂げていない。

唇を痛いほどにぎゅっと噛みしめる。

……王子さんの言ったように、落ち込んでいる暇があるならつぐみ姉に本音をぶつけてみればいい。

私は大きく息を吸い込むと、キッと顔を上げ最初で最後の抵抗を始めた。

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