ランチタイムの王子様!

「あ、料理来ましたよ」

ゆりあさんがそう言うとまもなく、完全予約制、ランチタイム限定特製パエリアの大皿が店員の手によって運ばれてきた。

美味しそうなパエリアを前にして、王子さんの話は一時中断となってしまう。

私はムール貝の身をフォークで突きながら、王子さんの元彼女という人物に思いを巡らせせた。

モデルの元彼女。一体、どんな人なんだろう。

料理好きの王子さんがメニューを封印してしまうくらい影響力のある女性だ。きっと、美人で、スレンダーな体格で、頭の回転も良くてお似合いのカップルだったに違いない。

モデルだもんね……。チンチクリンな私とは月とすっぽんほどの差がある。同じ人間だというのに、神様は時として残酷なことをする。

パエリアを食べてひと心地ついたお腹を撫でながら、ふうっと幸せなため息をつく。

(王子さんの作ったグラタンを拒絶するなんてどうやったらできるんだろう?)

美味しい食べ物には抗いがたい魔力もしくは引力があって、私など簡単に捕らえられてしまうわけだけど。

(信じられないよ……)

ああ、気になる!!

このモヤモヤとした気持ちはランチタイムを終えても晴れることはなく、打ち合わせ資料のコピー数をうっかり間違えてしまった私は王子さんから強烈なお小言をもらうのだった。

< 168 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop