ランチタイムの王子様!
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(本当に……どうしよう……)
昼間の出来事を反芻しながら、夕暮れに染まる商店街をトボトボと歩く。
駅からアパートまでの道すがらにある“胡桃坂商店街”は、昔懐かしい風情を平成の今でも色濃く残している。
転職を機に実家を離れ一人暮らしを始めた私にとって、この商店街は生命線だ。
夕方のかきいれ時の今はあちこちから活気のある呼び込みの声が聞こえてきて、まるで意気消沈している私の心を元気づけているようにも思えてきた。
(当日に会社休んじゃう?でも、王子さんに仮病使ったってバレそう……)
王子さんにかかれば誘導尋問もお手の物だろう。
ランチタイムの絶対君主は秩序を乱す者に容赦ない攻撃を浴びせることでしょう。
血の雨が降るかもしれないと覚悟したその時、一際威勢の良いご婦人の声を掛けられる。
「あら、ひばりちゃん!!今日は寄って行かないの?」
“キッチンすみれ”の店長、菫(すみれ)さんは手をメガホン代わりに丸め、カウンターから少し身を乗り出して私を呼び止めた。
カーキ色のエプロンと白い三角巾を着用した大きめの身体をゆさゆさと左右に揺らし、手を振る様は誰もが理想とするお母さん像そのものである。
「菫さああん!!」
困り果てていた私は甘えるように、キッチンすみれの店頭に駆け込んだのだった。