ランチタイムの王子様!

……クシュンと飛び出たクシャミにいち早く反応したのは麻帆さんだった。

「風邪?」

「そういえば昨日、髪の毛乾かさずに寝ちゃいました……」

鼻をズビッと啜って、“寒空の下で愛を叫ぶ”と銘打ったイベントポスターの誤植部分に、正しい漢字を記載したシールを張り付ける作業を続けていると再びクシャミが飛び出す。

「熱でも測る?」

麻帆さんは会社に常備されている救急箱から体温計を取り出すと、私に渡してくれた。

熱なんてあるわけないと強気でいられたのは、測定結果を示す液晶を見るまでだった。

「37度8分……」

「はい、間違いなく風邪ね。今日は早退して家でゆっくり養生してくださーい。治るまで出社しないでねー」

麻帆さんは体温計を取り上げると、私のバッグとコートを持ってきて、有無を言わさずオフィスからポポーイと締め出した。

冬場に職場に風邪が流行ると大変なのは分かるけど、もうちょっと優しくしてください……!!

怒るに怒れない。だって私は風邪を引いてしまったんだもの。

(病院寄って帰ろう……)

今は文句を言うことより、さっさと風邪を治すことを考えた方が賢明だ。

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