ランチタイムの王子様!

「あ、起きました?」

「王子さん……?」

私が目覚めたことに気がつくと王子さんは野菜を切る手を止め、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ワンルームの三分の一を占めるシングルベッドまでやって来た。

「顔がまだ赤いですね」

額にはいつの間にやら熱冷ましシートが貼ってある。自分で買った記憶がないから、王子さんが持ってきてくれたのだろう。

「何で……」

私の部屋に王子さんが……?

不審に思って尋ねると、王子さんはペットボトルを渡しながら苦笑いで答えた。

「鍵が開いていましたよ?不用心ですね」

……鍵が開いていた?

うわっ!!危ないにもほどがある!!

「勝手に上がるのは悪いと思ったのですが、母があまりに心配していたので……。力尽きて床に倒れていたら、それこそマズイですから」

つまり……。

王子さんは私を心配してわざわざ様子を見に来てくれたの?

「台所を借りましたよ。うどんですが食べられますか?薬を飲む前に少し胃に入れたほうが良いですよ」

「はい……」

……良い匂いの正体はやはり、うどんだった。

一人用の土鍋なんてこのアパートにはないから王子さんが持参したのだろう。先ほどまでコンロの上でぐつぐつと煮えていた土鍋の中にはねぎ、ほうれん草、卵、かまぼこが入っていて栄養満点だ。

レンゲでスープを掬うと鰹節ベースの出汁から湯気が立っていて、良い匂いがする。

数週間ぶりに味わう王子さんの料理をゆっくりと噛みしめる。

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