ランチタイムの王子様!

まるで、嵐のような一幕だった。

朝霧さんが帰ると、王子さんは私の頬に優しく指を滑らせた。

「怪我はありませんでしたか?」

「王子さ……」

「丸聞こえでしたよ、あなた達の声は」

「ついカッとなって……」

お金でレシピノートを買おうとした態度もそうだが、芸能界で生き残るための手段として料理を作るというスタンスが何より気に入らなかった。

料理は見た目よく、ただ上手に作れば良いってもんじゃない。相手のことを思い愛情をこめないと、ただのお飾りになってしまう。

……私はそのことを王子さんから学んだのだ。

「グラタンの話はあなたの先輩方から聞いたんですか?」

「すいません……」

これにはもう平謝りするしかない。本人に確かめもせず、ひとから聞いた情報から勝手に推測して、ドヤ顔で説教をかましたのだ。これで間違っていたら赤っ恥である。

「あの……朝霧さんとは……」

「お察しの通り、元彼女ってやつですよ。昔はあんな風にひとを傷つける人ではありませんでしたけどね。たまたま料理だけは得意な昔の男と再会して、レシピの盗用を思いついたのでしょう。プライドをへし折られた彼女がここに来ることは二度とないでしょうね」

……そう言って微かに微笑んだ王子さんは少しだけ寂しそうだった。

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