ランチタイムの王子様!
「ああっ!!アーケード街の出口の方に一軒出来ましたね!!」
アパートと逆の方向にあるのでまるで気にしていなかったが、何ヵ月か前にチラシをもらったような気がする。
「実は、あの店が出来てから若いOLさんのお客さん、みーんな取られちゃったのよ。あっちは自然派が売りで、私の惣菜は古臭いんですって」
菫さんは怒りをぶつけるように、ガシガシと何度もトングを鳴らした。お願いだから私の揚げたてコロッケは潰さないで欲しい。
「そうですか?私は菫さんのお惣菜好きですよ」
昔ながらのお袋の味って感じで安心できるし、なによりお財布に優しい。そして美味い。
お世辞ではなく心から言っているのだと分かると、菫さんは先ほどとは打って変わって照れたように微笑み、何も言わずにおかずを一品おまけしてくれた。
「っということで、新メニューにはひばりちゃんみたいな若い女の子の感性が必要なのよ。協力してくれる?」
私はコロッケとおまけでもらった煮物が入ったレジ袋を受け取り、代わりに小銭をトレイに置いた。
(新メニューか……)
菫さんには常日頃からお世話になっているし、私を必要としてくれるなら願ってもない話である。
「わかりました。私に出来ることなら協力させてもらいます。あちらに負けない美味しいメニューを開発してみせます!!」
私は快く引き受けると菫さんと、固い握手を交わした。