ランチタイムの王子様!
ビストロ華のお弁当に触発され、午後はレシピ本と睨めっこしながらなけなしの頭脳で考えたアイディアをひたすら紙に書き綴っていった。
10個書いてはダメ出しをくらいまた書き直しては見てもらい、あーでもないこーでもないと討論を繰り返していると、すっかりカラスがカーカーとなく夕暮れ時になっていた。
「これ、なかなか良いのでは?」
「どれですか!?」
テーブルに撃沈していた私は直ぐさま起き上がると、王子さんが眺めている紙を食い入るように見つめた。紙に羅列されたアイディアの中で、王子さんが指差した項目を音読する。
「“身体が温まるスープ”ですか……?」
「そうです」
なぜ、“身体が温まるスープ”が王子さんの目を引いたのだろう。
正直、アイディアが底を尽きて最後の方は今食べたい物を上から順に殴り書きしたようなものだ。
不思議に思っていると、王子さんがキッチンすみれとビストロ華のメニューを差し出してこう言った。
「キッチンすみれには汁物のメニューがありません。ビストロ華にも同じくスープメニューはありません。冬場ならではの温かいメニューはきっとお客さんにも喜ばれるはずです。惣菜と一緒に買ってもらって客単価が上がれば、それなりに利益もでるでしょう」
王子さんの台詞は力強く、説得力があった。
そうだよね。冬だもん。温かいものを食べたい季節だもんね!!
「テイクアウトの出来るスープメニュー、狙いましょう」
「はいっ!!」
元気よく返事をすると、今度はお腹の虫までぐーっと強烈に鳴り出す。
王子さんはそれを聞くと恥じ入って小さくなっていた私に、笑いを噛み殺しながら言った。
「夕飯、食べて行きますか?」
「すみません……」
こうして私は新メニュー開発への志気を高めるべく、王子さんの作る料理に舌鼓を打ったのだった。