ランチタイムの王子様!
「どうですか?」
王子さんはひたすら私の口元ばかりをジイッと見つめている。
スプーンを握る手に力が籠る。そんなに見つめられたら溶けちゃいますよ、王子さん。
「ど、どれもとっても美味しいですよ!!」
「それでは試食の意味がないでしょう……。真面目に考えてください」
「真面目に考えてますよ。だって美味しいですもん」
昨日はオニオンスープ、一昨日はクラムチャウダー。日替わりでスープを食べることに飽きないのは、ひとえに王子さんがそれぞれのスープにアレンジを凝らしてくれるから。
オニオンスープには粉チーズ、クラムチャウダーにほうれん草を入れたりと、ひと手間加えたオリジナルレシピが美味しくないはずない。
野菜の旨味がたっぷり詰まったミネストローネを堪能していると、王子さんは諦めた様子でレシピを見ながら一言呟く。
「次は、もう少しあっさりめに作りますか」
「はい」
どんな食材も王子さんの手にかかれば、キラキラと輝くご馳走になる。
(毎日食べられたら、良いのにな……)
毎日のように同じ食卓を囲んでいるとまるで夫婦にでもなったような錯覚を覚えてしまいそうで困る。
私達の関係は同じ職場の先輩と後輩に過ぎない。
(王子さんは私のことをどう思っているのかしら……?)
マンションに頻繁に出入りしていることついては、既に互いに疑問を持たなくなっている。
私は世話の焼ける後輩なの?
(それとも……)
私は勇気がなくて、いつまで経っても王子さんにその先を聞けないでいるのだ。