ランチタイムの王子様!

「それにしても、どれもこれっていう決め手に欠けますね」

王子さんはこれまで作ってきたスープのレシピをテーブルに並べると、ソファに腰掛け腕を組んでうーんと悩み始めた。

私は前に王子さんに教わった通り食後のコーヒーを淹れると、レシピを避けるようにしてテーブルにマグカップを置いた。

「全部美味しかったですよ?」

「当然です」

あら、すごい自信ですこと……。

事もなげにサラリというもんだから、私はお盆を胸に抱えながらタハハと意味なく笑ってしまった。

美味しいご飯というのは時として、鬼をも黙らせる効果がある。美味しいは正義という言葉が頭に浮かぶ。

「あ、でも……」

「気になる点でもありましたか?」

単なる思い付きを気軽に口にすることに躊躇っていると、王子さんの切れ長な目が私を鋭く射抜いているのに気がついた。このままでは新メニューの開発はにっちもさっちも進んでいかない。きっと藁をもすがる想いなのだろう。

「ビストロ華のお弁当も確かに美味しかったんですけど。なんか、こう……。私にはちょっと気取っているようにも思えて……」

「私の料理は庶民的ということですか?」

「違いますよ!!なんていうか……難しいんですけど……。菫さんと王子さんが作る料理って食べていて安心できるんです。ホッとするっていうか……。きっとキッチンすみれに来ているお客さんもそう思っているんじゃないでしょうか」

見た目が可愛くてきれいな料理だってもちろん好きだけれど、毎日食べるには気疲れしてしまう。きっと、仕事で疲れた時や怒られて落ち込んでいる時に食べたいと思うのは、ビストロ華のお惣菜ではなくキッチンすみれのお惣菜だ。

「食べてホッとする……」

王子さんは私の話を聞くと神妙な面持ちで何事かを思案するようにレシピ本をめくり始めた。

< 233 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop