ランチタイムの王子様!

“今日は先に作って待っています”

帰宅途中で王子さんからメールが届いたのは、その翌日のことであった。

自動車通勤の王子さんとは通勤経路が異なるため、いつもスーパーで待ち合わせをしていたわけだが、先に帰ってしまうとは珍しいこともあるものだ。

私は駅に着くと胡桃坂商店街を抜け、王子さんの待つ高台のマンションへと急いだ。

家主を呼び出しオートロックを解除してもらうと、見慣れたブルーの扉の前でインターホンを押す。

「すいません、先に帰ってしまって」

王子さんは私を出迎えると、開口一番にそう言った。

「いえ、大丈夫です。それよりも……」

扉を開いたと同時に溢れだした匂いに誘われ、靴も脱がない内にすんすんと鼻を鳴らしてしまう。

このかぐわしいお出汁の匂いといえば……!!

廊下を抜けてキッチンのお鍋の中身を覗くと、予想通りの献立に嬉しくなる。

「お味噌汁だ!!」

「ミネストローネやクラムチャウダーはいくら日本風にアレンジしても外国が発祥の食べ物ですからね。ホッとすると言えば、日本人にはやはりこれかなと思い立ちまして……。私の一存で方針を変えてしまい、申し訳ありません」

「いえ!!私、お味噌汁も好きです。わあ、具沢山!!」

お玉で鍋の中を掻きまわすと、ごろっと大きめの具材たちがこれでもかと姿を現す。

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