ランチタイムの王子様!
「王子さんの……お父さんもですか……?」
「旦那はね、一般家庭に育った私とは違って、とある資産家の跡取り息子だったの。私と結婚したいって言ったら家を勘当されてね。それでもふたりならば何も怖くなかった。若いってすごいわよね」
思い出を愛おし気に語る菫さんは、周囲に反対され苦労して一緒になった駆け落ち婚だというのにとても幸せそうだ。
「瑛介が生まれてキッチンすみれもオープンして、あの頃の旦那は随分と張り切って働いていたの。“家族3人頑張ろう”って」
「菫さん……」
菫さんがこのまま私達を置いて故人のところに行ってしまうのではないかと、本気で心配になってしまう。
「旦那が倒れたのを最初に発見したのは、瑛介だったのよ……」
菫さんはとても苦しそうに己の手を握りしめた。
私はハッと息を呑んだ。王子さんの様子がおかしいことに思い当たる節がないわけでもない。
菫さんが倒れた時、私以上に取り乱していたのは王子さんだった。
怒鳴られるまで一歩も動けずにいたのは、お父さんのことを思い出したから……?
「おかしい言い方だけど、あの時ひばりちゃんがいてくれて本当に良かったわ。あの子、旦那が倒れてそのまま亡くなった時も涙ひとつ流さなかった……。きっとショックが大きすぎたのね」