ランチタイムの王子様!
「ひばりちゃん!?どこに行くの!?」
私はノートとバッグを抱えると、菫さんが止めるの聞かず病室を飛び出した。
(冗談ですよね?キッチンすみれを畳むなんて……嘘ですよね!?)
……誰かに嘘だと言って欲しかった。
そうしたら、質の悪い冗談はやめてと怒れるのに。
病院から無我夢中で走り続けて、ようやくたどり着いたのは胡桃坂商店街のキッチンすみれ。
裏口にまわると半ば予想通り、休業中にも関わらず店内からぼんやりとした明かりが漏れている。
走ってきたせいで乱れた呼吸を整え、お守り代わりのレシピノートをぎゅうっと胸に抱えると、目的の人物と対峙するために裏口の扉をそっと開ける。
「王子さん……」
大型の冷蔵庫を開け放ち食材の整理をしていた王子さんに静かに話しかけると、彼は入口に立っている私を見て目を見張った。
「望月、さん……」
作業台の上には痛みかけている食材が雑多に並べられていて、変な所に気を回す律儀な性格が今は恨めしかった。
どうして……?
こんなに大事に想っているのに……っ……どうして……。