ランチタイムの王子様!
「菫さんから聞きました。本当にキッチンすみれを畳む気ですか?」
「……はい」
王子さんはふっと寂しそうに笑った。
「やはり、これ以上母ひとりでやっていくのは限界がありますから。望月さんには、感謝しています。あなたのおかげでここ数ヵ月、母は随分と楽しそうでした」
……違う。私が欲しいのはこんな言葉じゃない。お礼を言われても全然嬉しくない。
抱きしめられた時、王子さんをあんなに近くに感じたのに、今はまるで見えない壁があるみたいに遠くに感じる。
「おう……じ……さ……」
何か言わなきゃと声を振り絞ろうとした時、私達の間に割って入るかのように突然電話の電子音が鳴った。王子さんはすみませんと私に会釈をして、コードレスフォンの通話ボタンを押した。
ああ、そうか……。
「はい、キッチンすみれです」
見えない壁があるのなら……。
「すみません、弁当の宅配は、今は受け付けていな……」
……そんなの私がぶち壊してやればいいんだ。