ランチタイムの王子様!
私は王子さんの背後に忍び寄り無理やり受話器を奪い取ると、ここぞとばかりに大声で捲し立てた。
「お弁当のご注文ありがとうございます!!はい、土曜日に50人前ですね!!ありがとうございます!!11時に河原の野球場に届けさせて頂きます!!」
通話を終えふうっと一息ついているところに、王子さんの怒号が響き渡る。
「勝手なことをして!!あなたはどうかしています!!」
王子さんは頭から湯気が噴き出しそうなほど怒り心頭だったけれど、私だってとんでもない行動に出た理由がある。
怯みそうになる心を叱りつけ、ぐっと顔を上げて言う。
「私はお店を畳むなんて、絶対反対です!!」
「母も私もいいって言っているのにどうしてあなたが反対するんですか!?」
「お店を畳んだら王子さんは絶対に後悔します!!」
キッチンすみれは確かに王子さんにとって悲しい思い出がある場所だ。
だけど、このお店ににあるのは悲しい思い出ばかりではない。
王子さんと菫さんが過ごした月日の中には楽しい思い出も、嬉しい思い出もあるはずで、それは全部このお店のあちこちに宝物のように散らばっている。
楽しい思い出を悲しい思い出で上書きして、その上から蓋をしてしまっていいの?
私はそうは思わない。
だから、王子さん自身が後から悔やむような選択はさせたくない。
「あなたに私の何が分かると言うんですか……?」
気持ちを勝手に代弁した私を王子さんは冷たい目で見下ろす。