ランチタイムの王子様!
気を取り直しもう一度作業の工程を練り直していると、裏口の扉がバタンと大きな音をたてて開いた。
咄嗟に振り返るとそこには真冬だというのに顔にうっすらと汗をかいた王子さんが立っていたのだった。
「王子さん……!!」
王子さんは眉間に皺が寄った怖い顔のまま、ツカツカと私の元までやってくる。
「あ……の……。私……」
「あなたは、本当に無茶をする……」
王子さんはそう言うと、強く強く抱きしめてくれた。
……もう、大丈夫だ。
張り詰めていた心がスルッと撓んで思わず涙が滲む。
コートから仄かに香る甘い煙草のフレーバーを思い切り吸い込むとホッとした。我慢していたけれど、本当はずっと心細かったんだ。
そして、王子さんはそのことに気がついていたのだ。
「さあ、突っ立っている暇はありません。今は口より先に手を動かしてください。私も手伝います」
「はいっ!!」
……いつもの王子さんが戻ってきた。
天上天下唯我独尊。料理のことは何でもお任せあれ。全ての食材は彼の元に平伏すために生まれてきた。
私の好きな王様然とした、王子様が戻ってきた。
白馬に乗っていなくても、私にとって彼が唯一絶対の王子様だ。