ランチタイムの王子様!


「待っていましたよ」

王子さんは玄関の扉を開くと頬をやや上気させながら言った。

これから振られる相手に待たれるというのも奇妙な気分である。

「あ、えと……。お邪魔します……」

玄関に上がってスリッパを履くだけなのに、どことなくぎこちない動作になる。王子さんが上機嫌だから、なおさらだ。

出来の悪い生徒を破門にする理由を見つけて、清々しているからとか……?

……ダメだ。思考が暗い。暗すぎる。

ため息をつきながらコートとマフラーを脱ぎ、ハンガーにかける。

いつものように持参したエプロンを身に着けようとすると、王子さんがダイニングテーブルの椅子を恭しく引いた。

「今日はここに座ってください」

「最後のレッスンですよね?」

「ええ、そうですよ」

最後のレッスンなのに料理を作らないの?

ダイニングテーブルには一人分のカトラリーとナプキンが綺麗にセットされていて、それが誰のために用意されたものなのかは直ぐに分かった。

これは、もしかして、ひょっとすると……。

ドキドキと高鳴る胸を押さえながら椅子に座り、ナプキンを膝の上に置いて大人しく待つ。

< 266 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop