ランチタイムの王子様!

王子さんは床に膝をつくと、涙で濡れた私の頬を指で拭ってくれた。

これ以上、優しくしないで欲しい。お別れがより一層辛いものになってしまうから。

「望月さん、聞いてください」

「嫌っ!!聞きたくない!!」

嫌々と駄々をこねて耳を塞ぐ。だって、聞いたら終わってしまう。ふたりで過ごした日々が何の意味もないものになってしまう。

「聞きなさい!!」

王子さんは厳しい口調で言うと私の頬を手で包み、これ以上何も言えないように唇を強引に塞いだ。

「お、うじさ……」

「黙って」

王子さんはそう言うと、トレードマークだった眼鏡を外しテーブルに置いた。

抵抗がないとみるや、口づけはより濃厚なものに変わっていく。

……身体が芯から蕩けてしまいそうだった。

何度も何度も角度を変えられ夢中で応えていると、呻き声も小さなため息さえ掠め取られていった。

情熱的なキスに骨抜きにされ、すっかり大人しくなった私に王子さんがそっと囁く。

「私の料理を食べて屈託なく笑うあなたに魅かれていましたよ。最初からね」

それを聞いて、私はまた泣き出してしまった。今度は嬉し泣きだ。今までなんて遠回りをしていたのだろう。

< 269 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop