ランチタイムの王子様!
“料理もまともにできねーのかよ?“
私を冷え冷えと見下ろす彼の目が、役立たずと言外に罵っている。
憐れみと嘲りの混じったような笑い声は、数年経った今でも耳について離れない。
料理が出来ないことで人格全てを否定されるような、際立った特技のない惨めな自分が嫌いだ。
昔からそうだった。
一生懸命やっても生来の鈍くささのせいでちっとも上手くいかない。
幼稚園の時には隣の席の男の子にお気に入りの絵本を強奪され、返してというたった一言が言えなかった。
小学校に通う頃にはクラスの気が強い女子にしょっちゅう掃除を押し付けられ、焼却炉への近道ばかりに詳しくなった。
高校生になって淡い恋心を抱いた相手ができると、想いを綴った手紙を渡す前に友人の彼氏になっていた。
両親は私にも優しかったが、いつだって家族の話題の中心は出来の良い姉だった。
何かに隠れるようにして生きてきた自分を変えたいと望んで選んだ転職先でも、これまでと同じような目で見られてしまったらと思うと途端に怖くなる。
(私の居場所はどこにもないの……?)