ランチタイムの王子様!
「準備はOKですか?」
ノックした人物がひょっこりと顔を出すと麻帆さんは直ぐに親しげに声を掛けた。
「社長、今日はお早いですね!!」
「今日はルージュランチの日だということで、早めに切り上げてきたんですよ」
ダブルのスエードのスーツに、頭にちょこんと乗せた帽子がトレードマーク。まるで小さな英国紳士のような出で立ちの社長は御年64歳。良い感じのロマンスグレーである。
「どうですか、望月さん。会社には慣れましたか?」
「はい。皆さんとっても良い人達ばかりで……」
白髭を蓄えた温和な顔つきに侮ることなかれ。
社長はフィル・ルージュを立ち上げから数年で大手イベント企画会社と対等に渡り合えるような実績を作った相当なヤリ手だという。
従業員30余名だというのに、大手企業の慰労会や、老舗ホテルのイベント企画を物にしてきた手腕で伊達ではない。
早めにやってきた社長にお茶を注いでお箸やお皿をテーブルの上に並べ終わると、時刻は丁度12時になった。
小さな会議室はぞろぞろとやってきた社員で直ぐに一杯になった。皆が皆、持参した手料理をテーブルに並べていく。
私も心を痛めながら、持ってきたからあげをこっそりテーブルの片隅に置いた。