ランチタイムの王子様!
「お待たせしました。行きましょう」
「あの……今日はどちらに?」
王子さんはどこに行くとか、何をするとか前情報を一切くれなかった。
一体どこに連れていかれるのやら……。
まさか本当にこのまま牧場に運搬とかじゃないですよね……?
「直ぐに分かります」
王子さんはお決まりの眼鏡クイを炸裂させると、私の前をスタスタと歩き始めた。
身長差というものを一切考慮しない速度に文句を言ってやりたかったが、そんな暇はなかった。置いていかれるわけにはいかないので必死になって後を追いかける。
休日スタイルの王子さんが羽織っているブルーのフレンチリネンのシャツが目印のように爽やかに風に靡いてはためく。
思ったより大きめの背中を見つめても、彼が何を考えているかさっぱり分からなかった。
シャツの袖口からチラッと見える浮き出た血管が男らしくて良いなあ、なんて呑気にチェックしている場合ではない。
(やっぱり、ちょっと苦手だ……)
気まずい先輩と休日に待ち合わせて、内緒でどこかに連れていかれる。
少しの期待と大きな不安がないまぜになって、非日常感で心臓がざわりと波打った。