ランチタイムの王子様!

「着きましたよ」

「うわっ!!」

王子さんが急に立ち止まったものだから、私は鈍くさいことに逞しい背中に鼻の頭を打ってしまった。

「もう着いたんですか?」

イタタと鼻を押さえながら尋ねる。

周りの景色はさして変わっていない。入口から歩き始めてまだ5分も経っていないではないから当然である。

「こちらです」

王子さんにならってお店とお店の間、80センチほどしかない狭い路地を歩いて、商店街とは反対側にある裏口へとやって来る。

すんすんと鼻を鳴らすと、温かみのある良い匂いがしてほわーんと和んでしまう。シャッターが閉まっていたので気がつかなかったが、どうやら連れてこられたのはどこかの飲食店らしい。

「母さん、バイトを連れてきましたよ」

王子さんはそう言って、厨房へと続いているであろうドアを開けた。

こじんまりとした厨房には大型冷蔵庫2台に加えて、業務用炊飯器、中華鍋、油たっぷりのフライヤーなどの調理器具が所狭しと並べられていた。

コンロに置かれている大きな寸胴の蓋が水蒸気で動いてコトコトと小さな音を立てている。店の外で嗅いだ匂いの正体はこれだなと当たりをつけて覗き込むと、案の定大きめに切った野菜がたっぷりと煮込まれていた。

……と、こんなことをしている場合じゃなかった。

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