ランチタイムの王子様!
「王子さん、バイトって……?」
ぐいぐいと腕を掴んでどういうつもりなのか尋ねようとしたその時、私は厨房を縦横無尽に走り回る人影を見て、口をあんぐりと開けてしまった。
「菫……さん!?」
……それは紛れもなく、私もよく知っている大きめの身体をゆさゆさと揺らすあの名物店長だった。
「ひばり……ちゃん?やだ、どうしてこんな狭苦しい所に!?」
菫さんも私は入口に立ち尽くしていることに気がつき、互いに顔を突き合わせて呆けてしまった。
そう言えば、先ほど王子さんは菫さんを“母さん”と呼ばなかったか?
……嫌な予感がする。
彼が菫さんを母さんと呼ぶ理由、意味するところは一つしかない。
「ここは私の実家です」
「ええ――――っ!?」
早朝で良かったと心の底から思った。私のバカでかい叫び声は朝日に誘われて起きだしたすずめのチュンチュンという泣き声にかき消されていった。
お願いだから誰か嘘だと言って!!
姿形が全く似ていない二人を結びつけるのは、料理好きという点だけである。
衝撃の事実を受け入れるには、あまりにも時間が足りなかった。