ランチタイムの王子様!
無理を言ったというか、無理を聞かされたと言いますか……。
弱みを握られ半強制的に連れてこられたことは菫さんのためにも自分のためにも黙っておくべきだろう。
ボロを出しかねない内にサッと話題を変える。
「王子さんはよくお店のお手伝いをされるんですか?」
「弁当の大量注文があった時なんかわね。ほら、あの子。私が仕込んだだけあってなかなかの包丁さばきでしょう?」
「なかなかどころか、達人技でしたよ……」
王子さんが持つとあの暴れ馬のような包丁は急に大人しくなって手に吸い付いているみたいに滑らかに動くのだ。
……私とは雲泥の差である。
(どうなってんだろう?)
包丁にカラクリでもあるのか?
うーんと考え込んでいると、業務用の大きいボウルがドンという鈍い音とともに作業台にのせられた。
「無駄口叩いている暇があるなら手を動かしてください」
眼鏡の奥から冷たくギロリと睨まれ、ひぃっと悲鳴を上げて縮み上がる。
「すいません……」