ランチタイムの王子様!

“飯、作ってくんない?”

手料理が食べたいと先に言い出したのは、当時付き合っていた彼氏の方だった。

まだ身の程をわきまえていなかった私は、“料理?そんなの本を見れば出来るでしょ?”ぐらいの軽い気持ちで彼のおねだりを承諾したのだが。

……それが悲劇の始まりであった。

「私……彼に手料理を振る舞うまで、自分が料理オンチだって知らなくて……」

ひとり暮らし用の狭いキッチンに苦戦しながらも、一生懸命作った料理は見た目まずまずの出来だった……と思う。
ところがひとくち食べた瞬間、彼の表情が一変した。

“お前、こんなクソまずいものを俺に食わせる気か!!”

優しい男の仮面は剥がれ、口汚く罵倒する姿は鬼のようだった。

そう、私は炊事全般を母親に頼り切った実家暮らしのおかげで自分が料理下手だということにちっとも気がついていなかったのだ。

“料理もまともにできねーのかよ?”

結局、怒りの収まらなかった彼とは別れることになり、激マズの毒物を調合する魔女という称号で彼の仲間から呼ばれるようになった。

……それ以来、私は料理というものを一切しなくなった。

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