ランチタイムの王子様!

ランチタイムを終えオフィスに戻るために麻帆さんと一緒にエレベーターを待っていると、首元のネクタイを緩めながら王子さんがやって来た。

「王子じゃん。なんでスーツ着てんの?」

「打ち合わせに行ってきた帰りだからですよ」

麻帆さんが物珍しそうにキャッキャとからかい気味に声を掛けると、王子さんは煩いと言わんばかりに眉を顰めた。

フィル・ルージュは基本的に男女役職に関係なく私服勤務であるため、男性社員でスーツを着て来る人は少数派である。

(王子さんのスーツ姿、初めて見るかも)

王子さんの担当は主に企業向けの慰労会や記念式典であるため、クライアントと会う際はスーツ着用が必須なのだろう。

ネイビーにストライプの模様のスーツは王者の風格漂う堂々たる着こなしである。

6月に入り、一般企業ではクールビズが声高に叫ばれ、もてはやされているというのに、王子さんはキチンとネクタイとジャケットまで羽織っている。几帳面にもほどがある。

(暑くないのかしら……?)

汗をかかないのかと不思議に思い顔色を窺おうとすると、ちょうど王子さんとバチリと目が合った。

……王子さんはスーツよりも、エプロンの方が似合う。

目が合った瞬間、先日の出来事が思い出されて内心あわあわと浮き足立ってしまう。

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