ランチタイムの王子様!
“料理を教えましょうかと言いました”
突然の申し出にびっくりしている間に決まってしまったわけだけだ、本当に王子さんに料理を習うの?
そりゃあ、高いお金払って料理教室に行くよりは気楽だけど、兼ねてから思うところのある王子さんである。
料理の腕は一級品でも、教える方はどうなのか……。
「望月さん、乗らないんですか?」
「あ、乗ります!!」
ぼやぼやしている間にエレベーターは一階に降りてきていて、王子さんと麻帆さんは既に乗り込んでいた。
慌ててエレベーターに飛び乗ると、同じくランチタイムを終えた他のオフィスの人達に押されて、意図せず王子さんの胸板に飛び込む形になってしまった。
「すいませんっ!!」
「この時間は混みますから仕方ありませんね」
身動きが取れないまま、狭い箱は動き出す。じっと息を潜めて8階のオフィスに運ばれるのを待っていると、ふっと石鹸の良い匂いがした。
暑い中歩き回っていたというのに王子さんからは汗の匂いなどしない。
「明日、10時ですよ?」
……それは、私にしか聞こえないようにひっそりと囁かれた。
「っ……!!」
人が次々と降りていき王子さんと密着する必要もなくなったエレベーターで、私はいつまでも耳朶を押さえていた。
(冗談じゃなかったんだ……)
「望月さん、ついたよ?」
開ボタンを指で押さえた麻帆さんに促されるようにして8階に降り立つと、王子さんは何ごともなかったかのように涼しい顔で自席に戻っていったのだった。