ランチタイムの王子様!

「業務用の厨房と家庭用のキッチンだと勝手が違うでしょう?私のマンションに行きます」

「え!?」

王子さんのお宅!?

菫さんの話によると王子さんはご実家を離れて、この近くでひとり暮らしをしているらしい。

したがって、家にいくということは王子さんとふたりきりになるということに他ならない。

ここのところ全く発揮されていなかった女性としての警戒心が俄かに危険信号を発報してくる。

いくら先輩とはいえ男性の家にふたりきりで上がり込むなんて……。

急にカチンコチンに固まって無反応になってしまった私の心配事が何なのか、王子さんにはお見通しだったのだろう。小ばかにしたように、ふっと鼻で笑う。

「大丈夫です。何もしませんから。第一、あなたを弄んだりしたら母から鉄拳制裁を食らいますからね。安心してください」

「すみません……」

お気遣い、痛み入ります。

本来なら頭を下げるべきところなのだろうが、手を出さないと宣言されるとそれはそれで悲しい。

皮肉交じりに鉄拳制裁を食らう王子さん見てみたいですと、調子に乗ってのたもうものなら容赦なくあのすばらしい包丁さばきで切り刻まれそうなのでやめておこう。

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