ランチタイムの王子様!
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こうして、特訓の日々は幕を開けたのである。
王子さんはまず基本中の基本でもある包丁の使い方を私にいちから叩き込んだ。
初日の散々なデキから、ずぶの素人だと察してくれたらしい。
そうですよね……。
微塵になりきれなかった玉ねぎが宝物のようにハンバーグから発掘されるのを見ていましたもの。
「包丁を使わない時は刃を身体から遠い方に向けて身体と平行に置きます。こうしておけば、包丁を作業台から落として怪我をすることもありません」
ほうほう……。
メモ帳片手に王子さんの教えを頭に叩き込んでいく。
「左手は猫の手です。こうやって切りたいものを軽く押さえます」
王子さんはお手本を見せるように爪を隠して指先を丸め、人参の上に乗っけた。
「包丁は中指・薬指・小指で柄をしっかり持ち、親指と人差し指で刃の背中側を持ちます」
人参に対して包丁を押して引くと、厚さ1センチほどにストンと切れた。
すごーい。力を入れているように見えないのにちゃんと切れてる。
「右足を後ろに引いて、まな板に対して45度の角度にすると切りやすいですよ。まな板と身体の間は握りこぶしひとつ分開けて下さい。さあ、やってみてください」
「はい……」
王子さんの説明は分かりやすかったけれど、ガチガチに緊張した素人には到底容易く真似できるものではなかった。
ロボットのようにカクカクとしたぎこちない動きで、包丁を握るとカタカタと震えだした手にジワリと汗が滲んで、嫌な記憶を思い起こさせた。
元カレの顔が頭をチラついて、一歩踏み出そうとする勇気を委縮させる。