ランチタイムの王子様!
「待たせて申し訳ありませんでした」
「車、持っていらしたんですね」
カーステレオから流れるジャズ。仄かに香るカーフレグランス。なかなか上等な乗り心地である。
車離れが嘆かれている昨今では20代はおろか30代になっても車を所有しない人が多いというのに感心してしまう。
「通勤用ですよ。満員電車が苦手なので」
王子さんはそう言うと運転席側の窓を開け、ポケットから煙草を取り出した。
「吸ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
信号待ちの間に火を点け紫煙を燻らせるとカーフレグランスの匂いはあっという間に消え去って、王子さんのマンションと同じ、少し甘酸っぱいが車内に充満する。
フロントガラスから見える景色はブルースカイと白い雲。
強めの風に煽られて乱れた髪を耳の裏で押さえていると、どうしようもないほどに7月の暑さを感じた。
「もうすぐ二度目のルージュランチですよね。王子さんは何が当たったんですか?」
「魚料理です。望月さんは?」
「何の因果かまた肉料理です……」
くじを引いた直後、我が目を疑ったのは言うまでもない。
まさか二度続けて肉料理が当たるとは、我ながらくじ運がないなあと思う。
王子さんが仕組んだのかと疑いたくもなるけれど、メニュー決めのくじ引きは厳密に平等かつ公平に実施されている。