ランチタイムの王子様!

「うわ!!王子さんあれなんですか!?」

奇怪なものがショーケースに飾られていたので、驚きのあまり王子さんのシャツを引っ掴んでぐいぐいと引っ張る。

お皿に盛られた美味しそうなナポリタンを巻き付けたフォークは完全に宙に浮いている。

「食品サンプルの専門店です。つまりは偽物ですよ」

「ええ!?偽物!?」

そんなバカな……!!こんなにも美味しそうなのに!!

本物と見紛うばかりの光沢はとても偽物とは思えない。

じゃあ隣に並んでいるこの霜降り牛肉も偽物なのか?

均等に脂ののったお肉は極上の宝石のように美しいのに……。

真偽を確かめるべくじいっと見つめていると、指先に冷たいものが触れる。

「迷子にならないでくださいね」

手を握られたと分かったのは、王子さんの背中との距離が先ほどより縮まったからである。

(恥ずい……)

手を引かれた私はなんとなく恥ずかしくなって俯いてしまった。

迷子になりそうだから捕まえておこうなんて、色気のない理由で手を繋いだのは初めてである。

20代も中盤を迎えようとしている女性を子供扱いですか。

あと数ヵ月で私も四捨五入したらアラサーですよ。

そりゃあ、10歳近くも年が離れていれば王子さんからしたらお子様みたいなものでしょうね。

< 85 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop