ランチタイムの王子様!

(子供っぽかったかな……)

今朝家を出る時は完璧だと思っていた髪型と服装が、急に嫌になってきた。

身長は平均より低めの157センチ。体重が増加するとすぐ膨らんでしまう丸顔に悩まされ、思い通りにならない癖毛に毎朝悪戦苦闘中。極めつけは揉もうが鍛えようがちっとも大きくならない貧乳というのが、超コンプレックスなのだ。

「王子さんはよく問屋街には来るんですか?」

「ええ、そうです。店にある調理器具や設備は私が選定しています」

おそらく、王子さんの家にある調理器具も問屋街で買ったものだろう。

どおりで手に馴染むわけだ。洗練された使い心地を追求しているのは職人仕様ならでは。最近では、海外メーカーの高級鍋や一芸に特化した便利な調理器具が増えているが、王子さんの家にはそういった類の物は一切ない。

“手間を惜しまないこと。それが上手くなる秘訣です”

ちっとも上手にジャガイモの皮が剥けなくてイライラしていた私に、王子さんはこう言ったことがある。

毎日献立を考えなければない主婦の方々は別ですけどね、と言い添えると彼は愛おしげに大根の皮を包丁で剥いていた。

シュルシュルッっと気持ちの良い音を聞いているうちに尖った心が凪いでいくのが分かった。

……何だか楽しそう。

王子さんにならうようにして、皮を包丁で剥こうとして、流血したのは今でも良い思い出だ。

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