ランチタイムの王子様!
王子さん御用達の問屋街は休日のせいか、評判を聞きつけた観光客や物珍しげに写真を撮る外国人で結構にぎわっている。
王子さんはまず問屋街の中でも老舗と思われる包丁店の暖簾をくぐった。
店頭のショーケースには有名シェフの名前が刻印されているスタイリッシュな包丁や、刃渡り一メートルもあろうかというマグロ解体用の巨大包丁が飾られていて、通りを歩いている人達を大いに沸かせている。
……ただし、王子さんは目もくれなかったけれど。
「素晴らしい……」
ただただ、店内に綺麗に並んだ包丁を見てうっとりと感嘆のため息を漏らしているなんて傍から見たら、完全におかしい人だ。
普段は冷静沈着な王子さんが興奮している……。明日は雨が降るかもしれない。
その内飽きるだろうと思い、私は王子さんの邪魔しないように息を潜めて、成り行きを見守ることにした。
2階、3階と続くあまり広くもない店内を無駄に長い時間をかけてグルリと一周して戻ってきても、王子さんはまだ包丁に見入っていた。
おーい。当初の目的を忘れかけていませんかー?今日は私がお家で使う調理器具を買いに来たんでしょー。
大声で訴えてやろうかと思ったその時、王子さんが突如顔をこちらに向けた。