ランチタイムの王子様!

「望月さん、この包丁なんてどうですか?」

「へ?」

王子さんが真剣な表情で選んでいたのは、私でも使えそうなステンレスの家庭用包丁だった。

ところがどっこい。家庭用だと侮ってはいけない。

値札を見て、目ん玉が飛び出るかと思った。

お値段3万円……。包丁に3万円!!

流石専門店である。日本の匠の技ってすごいのね、と感心している場合ではない。

「こんなの買えませんよー!!」

フィル・ルージュで働き出してからまだ3ヵ月しか経っていない。転職活動と引越しのおかげで貯金を使い果たしてしまったせいで、お財布の中身はひっくり返しても小銭がコロンと転がるようなすっからかんの状態なのだ。つまり、包丁に3万円も払う余裕などない。

「何言っているんですか?あなたに払わせるはずがないでしょう?」

「ええ!?」

王子さんの太っ腹な発言に包丁の値段以上に驚いてしまった。

「バイト代ですよ。先日は朝早くから手伝ってもらいましたからね」

「でもあれは……」

ズルをしてしまった私に対する口止め料に他ならない。3万円の包丁を買ってもらう理由には到底なり得ない。

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