ランチタイムの王子様!
包丁の名入れを待つ間にようやく目当ての調理器具の物色を始める。
王子さんはつい見た目の可愛さや、メーカーのネームバリューを重視しがちな私に的確なアドバイスをくれた。
「ボウルはステンレス製の他に耐熱ガラス製のものがあると電子レンジが使用できて便利ですよ」
王子さんは料理だけでなく、調理器具に関しても博識だった。
「スリットの入っているフライ返しは卵の白身と黄身を分ける時に便利です」
王子さんのアドバイスにふむふむと頷きながら、ひとつひとつの器具を手にとってその感触を確かめる。
殺風景なキッチンに華を添えるための仲間集めは、ゲームの世界で打倒魔王を掲げて集結する勇者様ご一行のそれに似ている。
同じ種類の道具でも、どれひとつとして同じものはない。
「どうです?なかなか楽しいでしょう?」
「はいっ!!とっても楽しいです!!」
私は満タンになったレジ袋を片手に、満面の笑みで答えた。
いつでも楽しそうに料理を作る王子さんに感化されて、心の中で何かが変わろうとしている。
大学生の時の例の一件以来、料理を作ることをずっと避けていた。
皆が出来ることが出来なくて、悔しくて辛い思いもしたけれど。面と向かって立ち向かってみれば何も恐れることはない。
千里の道も一歩から。最初から上手に出来る人なんていやしない。誰だって始めたばかりの頃は初心者だ。
だから、私もこれから成長すればいいんだ。
きっと、大丈夫。
私には王子さんがくれた勇者の剣代わりの包丁があるのだから。