ランチタイムの王子様!
「それじゃあ。また明日会社で」
「はい」
荷物を持ってカンカンと高らかにパンプスのヒールの音を鳴らしながら、アパートの外階段を駆け上がる。
「望月さん!!」
鍵を開けようとバッグを漁っていると、階下で王子さんが私の名を叫ぶ。
「今度こそ、楽しみにしていますよ。あなたの手料理っ!!」
王子さんはニッと唇の端を上げて笑いかけると、車に乗り込んで自宅へと帰っていった。
車が走り去ったというのに、私はしばらくその場から動くことが出来なかった。
ようやく、ハッと我に返って慌てて部屋の中に入る。
(い、今の何だったの!?)
バタンと後ろ手に玄関扉を閉めてもたれかかると、あまりの出来事にずるずると背中がずり下がっていってぺたんとその場に座り込んでしまう。
……王子さんがまた笑ってくれた。楽しみにしていると言ってくれた。
買ったばかりの調理器具が入ったレジ袋をぎゅっと胸に抱きしめる。
締めきっていた部屋に残る昼間の暑気にあてられて、クラクラと眩暈がしそうだった。