ランチタイムの王子様!
「私もひとつ頂いてもよろしいですか?」
どこからともなく現れたのは、私にハンバーグの作り方を教えてくれた張本人だった。
「王子さん……」
王子さんはタッパーの中身を見るなり、よく頑張りましたねと褒めるように背中を軽く叩いた。
かなり無骨な出来ではあったが、自主練の成果を認めてもらえたみたいでくすぐったくなる。
「ねえ、王子の作ったやつはどこにあるの?」
「あちらに置いてありますよ」
麻帆さんが尋ねると王子さんが反対側のテーブルを指差した。その先には、涼やかなガラスの丸皿に綺麗に盛り付けられたスズキのカルパッチョ・ポン酢ジュレ添えが圧倒的な存在感を放ちながら鎮座していた。
既に多数の人が旬の食材であるスズキに舌鼓を打っている。
(あの丸皿……)
なんか見覚えがあると思ったら、王子さんの家にあったやつじゃないか?
登場が遅れて何をしていたかと思えば、もしかして会社の狭いミニキッチンでスズキを盛り付けていたのか?
雰囲気を盛り上げるためには視覚的効果を狙うべし、というのは王子さんの教えでもあるが、わざわざ家からお皿まで持参するとは恐るべし。