婚約者はホスト!?①~永遠の愛を君に~
「う、うん。大丈夫」
気まずい沈黙が続く。
「ま、まあ、とにかくさ、響さんと話すのはまた今度にして、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
「そうだね」
「じゃあ、俺はもう戻るけど、また連絡ちょうだい。いつでも相談に乗るからさ」
拓哉はなつの頭をひとなでして、控え室を出て行った。
『特に響さん、客と寝てるって噂もあるしね』
なつの頭の中は拓哉の言葉がグルグルと回っていた。
なつは圭司に抱かれたことがなかった。
『大事過ぎて手が出せない』
そう言っていつもキス止まり。
圭司はそれ以上の事をなつに求めてこなかった。
圭司は凄く誠実だった。
あの頃の圭司はいったい何処へ行ってしまったんだろうか。
なつの目から涙がこぼれそうになった時だった。
控え室のドアが開いて、圭司が中へと入ってきた。
「まだ、いたんだ?」
圭司は素っ気ない口調でそう言った。
「あ、えっと。さっきは助けてくれてありがとう」
「別に。店の前で客にケガされたらいい迷惑だから」
圭司は冷たくそう言うと、ロッカーを開けて客からのプレゼントらしき品を無造作に放り込んだ。
訊くなら今しかない。
なつは思い切って切り出した。
「ねえ、圭司。いったい1年前に何があったの? どうしてこんなに変わってしまったの?」
「あんたもしつこいな。俺は圭司じゃないって言ってるだろ?」
圭司は鋭い目でなつを睨む。
「そんなこと言うなら私だっていつまでも諦めないよ。圭司の口からちゃんと理由を聞くまでは何度だってここに来るから!」
「あっそ」
圭司はバタンとロッカーをしめて、なつの方へと歩いてきた。
そして、ソファーの背もたれに両手をつき、なつに顔を近づけた。
「わかったよ。そんなに言うなら教えてやる。俺はおまえのことなんて初めから好きじゃなかった。おまえが金持ちの娘だから付き合ってただけだ。でも、おまえの父親はどうせ俺との結婚なんて認めないと思ったし、もっと楽して金を稼ぎたくなったからホストになった。ただそれだけ」
「うそよ……。どうしてそんな嘘吐くの?」
「これだから世間知らずのお嬢様は」
圭司はそう言って鼻で笑った。
「俺が元暴走族のリーダーだったってこと忘れたか? 俺はな、今みたいなホストの方が性にあってんだよ。まともに働く気なんてサラサラない。分かったら、もう二度と俺のまわりをウロつくな」
次の瞬間、パチンと乾いた音が鳴り響いた。
なつが圭司の頬を思いきり引っぱたいたのだ。
「最低……。圭司のこと信じてたのに」
なつは圭司に向かって思いきり指輪を投げつけた。
「何とでも言えよ」
悪魔のように笑った圭司。
なつはショックを受けながら部屋を飛び出したのだった。