婚約者はホスト!?①~永遠の愛を君に~
嫉妬
圭司との悲しい別れから一週間後のこと。
なつの元に賢三が倒れたという知らせが入った。
賢三は妻節子と出席していたパーティーの途中、胸の痛みを訴えたのだという。
『過労だという診断ですが、念の為にしばらく入院することになりました。なつさんは先生の着替え持って慶明大学病院に来て下さい』
田島からそんな連絡を受けたなつは、急いでタクシーを捕まえ病院へと向かった。
「なつさん、こちらです」
病院に着くと、田島がロビーで待っていた。
なつは田島のあとについて病室へと急ぐ。
「あの……父は大丈夫なんでしょうか?」
過労だからたいしたことはないとは言われていたが、やはり病状が気になった。
「ええ。今は元気にしてらっしゃいますので心配いりません。ただこの所、先生は激務が続いてましたから、検査入院という形で少し休んで頂くことにしました」
「………そうですか」
なつはそれだけ言って口を閉ざした。
田島とはあの強引なキス以来、顔を会わすのは初めてだった。なつも田島もその話題に触れることはなく、しばらく無言のまま廊下を歩いた。
「ここです」
田島は足を止め、特別室と書かれた病室のドアをノックした。
「おお、なつか」
ホテルのような豪華な部屋に入ると、賢三がベッドに横たわっていた。
「心配かけてすまなかったな。何となく胸が痛いって言ったら、田島が大げさにするもんだから」
賢三は『参ったよ』と笑った。
「でも、何かあってからじゃ遅いじゃない。もういい年なんですから」
節子はなつから荷物を受け取とりながら口にする。
「お母様の言うとおりよ。あまり無理しないでね」
「分かった、分かった。まあ、私には田島がいるしな。ゆっくり休ませてもらうよ」
賢三はそう言って、田島の方をチラリと見た。
「ええ。お任せ下さい。あとのことは、私が全て引き継ぎますから、どうかご心配なさらずに」
「おお。それは心強いな」
信吾の言葉に賢三は満足そうに笑った。
田島はすっかり父の信頼を得て、着実に後継者というポジションを手にしようとしている。
もう引き返せない。
なつは胸が苦しくなった。
「私………ちょっと売店に行ってくる」
なつは現実から逃げるように病室を出た。