婚約者はホスト!?①~永遠の愛を君に~
なつはゆっくりと首を横に振った。
嫉妬して不安になる気持ちはなつにも分かる。
彼女が悪い訳ではないのだ。
なつは由香理のことを心底憎めなかった。
「なつさん。なつさんはまだ圭司のことが好きなんでしょうか?」
由香理は目に大粒の涙を溜めて声を震わせた。
儚げで守ってあげたくなるような女性。
圭司が好きになるのも頷ける。
なつは彼女を見つめながら、ふとそんなことを思った。
「いえ。私は…………。もうすぐ婚約者と結婚しますから」
「えっ?」
「それに圭司にもハッキリと言われたんです。由香理さんが大事だから俺のことは忘れてくれって。だから、安心して下さい」
なつが答えると、由香理は目をパッと輝かせた。
「そうでしたか。なんかすみませんでした。変なこと言って…」
「いいえ。ゆかりさんも圭司と幸せになってくださいね。じゃあ、私はこれで…」
なつは精一杯の笑顔を作って、ベンチを立ち上がった。
◇◇◇
なつは病院を出て駅までの道を急いだ。
胸が苦しくて押しつぶされそうだったのだ。
幸せになってくださいなんて強がりもいいところだった。
駅が見えた所でなつの携帯が鳴った。
画面に表示されたのは拓哉の名前。
『もしもし、なっちゃん? 今どこにいる?」
拓哉の人懐こい声を聞いて、なつはホッとした。
「今、桜川駅に着いた所だけど?」
「そっか。あのさ、急なんだけど俺とデートしない?」
「えっ!? デート?」
「そう、デート。じゃあ、迎えに行くから、その辺の店でも入って時間潰しててよ」
「へっ? あっ、待って、拓哉さん」
『ツーツーツー』
拓哉の電話は一方的に切れてしまった。
拓哉と最後に会ったのは、圭司に抱かれたあの夜だった。あの時、必死に止めてくれた拓哉の顔を思い出すと胸が痛む。
会ったら、ちゃんと謝らなくちゃ。
なつはそう口ずさみながら、駅の改札を引き返したのだった。