婚約者はホスト!?①~永遠の愛を君に~
けれど、それからしばらく経っても、一向に田島が現れる気配はなかった。
「由香里さん。彼は青龍会とは無関係だったみたいです」
「良かったですね。じゃあ早くここを出ましょう」
二人は先ほどの穴をくぐって塀の外へと出た。
「ありがとう。由香里さん。こんな危険なことに巻き込んでしまってすみませんでした」
「いいんですよ。言ったじゃないですか。自分の為だって」
由香里はにこりと微笑む。
そうは言っても、こんな命かげのことをそんな理由だけでできるはずがない。婚約者が本当に青龍会の人間だったらと心配してくれたのだろう。
こういう人だから、圭司も由香里さんに惚れたのかもしれない。悔しいけれど彼女には敵わないと思った。
「そうだ。念のために彼に電話してみたらどうですか?」
「あっ、そうですね」
なつは由香里の言葉に頷き、田島に電話をかけた。
田島はワンコール目ですぐに出た。
「あっ、えっと……なつです」
『珍しいですね。なつさんから電話をかけてくるなんて。何かあったんですか?』
「いえ、あの……。今、田島さんはどちらに?」
「先生のところですよ。お見せしたい書類があったので、顔を出したのですが何か問題でも?」
「い、いえ…。それならいいんです」
電話の向こうからは、「なつか?」と田島に尋ねる賢三の声が聞こえてきた。
「では、田島さん。父に宜しく伝えて下さい」
なつは慌てて電話を切った。
「きっと、電話は誰かの嫌がらせだったんですよ」
由香里がなつに笑いかけたその時だった。
「おまえらここに何やってんだ?」
背後から聞こえた声に、なつはビクッとしながら振り返る。