婚約者はホスト!?①~永遠の愛を君に~
「とりあえず逃げ切ったか」
圭司は大きく息を吐いて車のエンジンを切った。
そこは、なつの自宅近くのいつもの公園だった。
「あ……ありがとう。助けてくれて」
後部座席からなつが声をかけると、圭司は冷たい顔で振り向いた。
「おまえ、いったい何考えてんの?」
なつはビクッと体を震わせた。
「ご、ごめんなさい」
「拓哉から聞いたよ。婚約者が青龍会の人間かどうかを確かめようとしてたんだってな? そんな無茶な真似して、ただで帰ってこれると思ったのか?」
圭司は厳しい口調でなつを諭す。
「ごめんなさい…。本当に反省してる」
なつには弁解の余地もなく、ただただ謝り続けた。
「で?………結局いたのかよ、その婚約者は」
「ううん。いなかった。電話はただの悪戯だったみたい」
なつの言葉を聞いた圭司は、ウンザリしたようにため息をついた。
「たかが悪戯で由香里を巻き込むなよ。すっげえ迷惑」
「あ………うん。ごめん」
「もう二度と由香里には近づくなよ? やっと由香里を青龍会から救い出したばかりなんだから」
圭司の言葉になつの心は深く傷ついた。
圭司がキレているのは『恋人が危険な目に合わされたから』で決してなつの為に怒っている訳じゃない。
助けてもらっておいて言えた義理ではないが、なつにはそれが何よりもショックだった。
「分かっ……た。二度と由香里さんには近づかないから」
こみ上げる涙を堪えながら精一杯言葉を返す。
「待って、圭司! 悪いのは私なの! 今回の件は私がなつさんを誘ったの。そんなになつさんを叱らないであげて」
ずっと黙って聞いていた由香里が助手席から口を挟んだ。
「じゃあ、由香里もなつに二度と関わらないって約束して。俺はおまえが何よりも大事だから」
圭司は由香里の手を握り優しく言葉をかけた。
「うん。もう心配かけないようにするね」
そんな二人のやり取りを見たなつは、いたたまれなくなって車を降りた。
泣かないつもりだったなつの目から、ポタリポタリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「なつ!」
そんななつの後を圭司が追いかけてきた。