【短編集】秘密
「どれが良い?」

「その紫の透明の透明のやつ!」 

「っしゃ」

水色の人工的な色をしたプールの中に、色とりどりの飴みたいな風船が浮かんでいる。

キラキラと光が水に反射して、とても綺麗だ。

ひょいっと一つが釣り上げられて夏奈子の手に収まった。

カップルなんだなぁ、と今更ながら思う。

「洋、ありがとー!」

「全然」

「単純だね夏奈子…」

「うっさーい」

ニヤニヤを隠せない夏奈子。

「千春ちゃんは?」

急に名前を呼ばれて肩が跳ねた。

「私にもくれるの?」

「Sure」

ムダに発音が良い。

「…じゃあ、黄色のやつ」

了解、と敬礼するのを見てからほんのわずかな時間。 

「どーぞ?」

「ありがと」

中の水がひんやり気持ちいい。

「これも」

もうひとつ手渡されたのは、無色透明にカラフルな水玉柄の風船。

「千春ちゃんぼったくったからね」

バカだね、それじゃ高価格にした意味なくなるじゃん。

そう思ったけれど嬉しいのに変わりはないので素直に受け取っておく。

「ありがとう」

「いーえ」

洋は私にニヤリと笑いかけると、夏奈子に走り寄った。

「ほら夏奈子いこっか?」

優しく愛しそうに彼女を見る瞳が──痛い。

どこかを刺されたみたい。

やけに眩しい。

「千春ー?」

夏奈子が私を呼んでいる。

「ごめんボーッとしてた!今行く!」

私はまた、痛みに気づかないフリをして走り出した。
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