【短編集】秘密
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「じゃあ、今日はありがとう」

夕焼けが赤く染まる頃。

今朝と同じ校門前まで洋が送ってくれた。

「楽しかった!」

「良かった」

「大いに貢献したでしょ?」

「焼き肉も無事行けるしね」

三人で笑い合っていると、けたたましい子供の泣き声が聞こえてきた。

「ど、どうしたんだろ?」

「水風船が割れちゃったみたいだよ」

泣き声の方向を見ると、確かに男の子がびしょ濡れで泣いている。

「行ってくる」

考えるより早く体が動いて、男の子の前にしゃがみこんでいた。

「はいどうぞ」

「そんな、悪いです!大丈夫よね、ケンタ?」

お母さんらしき人がアワアワと男の子に尋ねている。

「いえ、良いんです。二つもあるので」

「でも…」

「二つあっても持て余しちゃうだけですから。ね?」

そう言って男の子に笑いかける。

「ケンタ!ありがとうは?」

「ありがとう、お姉さん」

「うん!じゃあね、ばいばい」


親子に手を振って別れる。

「っ!?」

突然、ぽんと頭に手が置かれた。

「ふーん?持て余しちゃうんだ?」

洋だ。

「建前ってもんがあるでしょうが」

「そうだけど、良かったの?」

「何が?」

「あれ千春ちゃんが欲しがってた方じゃん」

男の子に渡したのは黄色の風船だ。

「どうせなら俺のにしたら良かったのに」

「別にどっちでも良かったの。透明も可愛いし」

「なら良いけど。気をつけて帰れよ」

「はいはい」

私は適当に返事をして夏奈子と歩き出した。
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