【短編集】秘密
「ん、やるわ」


ひょいっと口に何かが放り込まれた。


「チョコ食ったら元気出るだろ?」


「先輩、甘党なんですね。意外」

「うるせぇな、男は辛党って決めつけてる方がおかしいだろ」

自然と口角が上がって笑みがこぼれた。

桜木先輩がニカッと笑う。


「…じゃあ気をつけて帰れよ?」


「はい」


「悪いけど、百合花待たせてんだよ。ごめんな」


「───え?」


夕暮れのグラウンドで、ピタリと足が止まった。


「百合花?」



私含め二人のマネージャーの内の、もう一人の子。

照れた桜木先輩が手を首筋にあてる。


「付き合うことになってさ」


先輩はそれだけ言うと、片手を上げて走り去って行った。



部活を、辞めた。




私には、何も残らない。







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