太陽に恋をして
◎抱き枕と唯月
鼻がくすぐったくて目が覚めた。

すぐ目の前に見慣れた茶色い頭のてっぺんがあって、私の鼻をくすぐる柔らかい髪の持ち主がすやすやと寝息をたてている。

なんか暖かいと思ったら…。
アザラシの抱き枕だと思って抱いていたのはこいつだったらしい。

「ゆづ、なんでいるの?」

唯月(ゆづき)にからませていた足を抜き取り、そのまま足で体をぐいっと押すと、唯月はあっけないほど簡単にゴロリ、とベッドから転げ落ちた。


「いてぇ…」

ベッドの下で毛布にからまったまま、唯月は弱々しく不満をもらす。


「昨日も玄関の鍵閉まってなかったから…危ないだろ…」


「だからって、勝手に入ってきて寝てるっておかしいでしょ」


「泥棒が入ってきたらどうすんだよ?」


朝に弱い唯月は、まだ夢うつつで、それでもモゴモゴと呟く。

「取られるもんなんかない」


「あるじゃん」


「なによ?」


「ふうちゃん」


バッカじゃないの?

上から思いきり枕を投げつけると、唯月はもう一度、いてぇ…と呟き、落ちてきた枕に頭を乗せてまた眠ろうとする。


「寝ぼけてないで、起きて」



言いながら、今度は力任せに唯月の頭の下にある枕を取り上げた。

ゆづはゴトッと床に頭を打ち付けて、ひでぇ…とぼやいている。



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