太陽に恋をして
「…ねぇ、ゆづ」

手の震えがようやくおさまってきた頃、楓佳が顔を上げた。

春の風が吹いて、芝生と楓佳の長い髪が揺れた。


「…どうして私の隣にゆづがいないの?」

楓佳は目にいっぱい涙をためて、俺をじっと見つめる。


「どうして一緒にいてくれないの?どうして一人でどっか行っちゃうの?どうして…」



涙が一雫、音も立てずに芝生に吸い込まれた。


「…どうしてゆづが私より先に泣くの?」


先に雫をこぼしたのは俺だった。


「私より先になんで泣くの?」


楓佳はそう言うと、ポロポロ涙をこぼした。


「本当にゆづはしょうがないな」



力が抜けたように、楓佳は笑った。
泣きながら笑う楓佳を俺は力一杯、抱き締めた。

楓佳の体は小刻みに震えていた。
たぶん、笑っていたんだと思う。


ぎゅうっと楓佳の腕が俺の背中に回る。

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