太陽に恋をして
シュラスコの店は加奈さんに教えてもらったらしい。

「ブラジルの人が目の前でお肉を切ってくれるんだって」

楓佳は寒さに鼻の頭を赤くしながら続ける。


「味付けはお塩だけなんだって。なんて名前か忘れたけど、ブラジルのお酒もあるんだって。加奈さんは妊婦さんだから飲めないんだけど、旦那さんが飲んで酔いつぶれちゃったんだって」

コートのポケットに両手を入れて、早足で店に向かいながら、楓佳は珍しくよく話す。


「パイナップルを焼いたやつがおいしいらしいから、絶対それも食べよっと」


「ふうちゃん、俺腹へったわ」


昼を食べたのは4時頃で、それも立ったままコンビニのおにぎりを食べただけだということを思いだし、俺はわざと弱々しい声を出す。


「今日、俺おにぎりしか食ってない…」

信号待ちで立ち止まったのをいいことにガードレールに腰かけると、楓佳が少し心配そうに身をかがめて、俺をのぞきこんでくる。




俺と目が合うと、楓佳はよしよしと俺の頭をなでて、

「シュラスコはもう少しだ」

と励ました。



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